百花繚乱 社内ラブカルテット
彼は私の同期で、入行当時は山手線圏内の支社勤務だったけど、二年前に本部に異動してきた。
今年度の初めに、調査役に昇進したばかり。
入行五年目で本部で大企業取引を担当し、七年目にして役付昇進。
順調に出世街道を突き進む、将来有望な銀行マンだ。


「古川さんも俺と同じ二十九歳なんだし。眉間に皺を寄せてると、そのまま刻まれちゃうよ」


自分の眉間を指で差して示しながら、仰々しいくらい皺を寄せてみせる彼に、私は思わずプッと吹き出した。


「酷い顔」

「うわ、冗談でも言うか、それ」

「嘘嘘」


ポンポンと会話を繰り出しているうちに、私の眉間の皺もすっかり伸びてくれた。


ピークを越えて食堂は空いているとは言え、周りのテーブルには他の行員もいる。
今、彼は私を名字で呼ぶけれど、普段はお互い下の名前で呼び合う仲。
景は一年前から付き合い始めた、私の彼だ。


「忠告、ありがとう。田神君。……私の顔、浮かなかったかな」


スリムな体型の割に、大食漢の景。
豪快に食事を始める景の指摘を気にして、私は無意識に頬を摩った。


「憂いを帯びた感じで、遠目にも色っぽかった。おかげで、ついついこんな窓際まで引き寄せられたよ」
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