春色のletter
春だけど少し肌寒い中、ゆっくり歩いて武蔵野館に着いた。


玄関で靴を脱いでいると、丁度2号室のドアが開いた。


「おや、お帰り」


出てきたのは大家の相武砂羽(あいぶさわ)さん。


78才という年を感じさせないしっかり者で、若い頃はきっとモダンな未亡人。


「ただいま」


「遅かったんだね」


「うん、佐伯さんのところでお呼ばれしたの」


「ああ、そう。あのあんちゃんも後輩に奢れるようになったとはね」


佐伯さんも最初はここに住んでいたのだ。


「いい家庭よ」


「そうかい?まあ、いいや」


そう言うと、砂羽さんは買い物にでも行くのか、いつものエコバッグを腕から下げて靴を履こうとした。
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