幸せの構図

「いらっしゃいませ」

間髪入れずに声が響いた。トレンチを持った小柄で痩せた中年のウェイター。声も立ち居振る舞いも懐かしい彼のものだった。軽やかにトレンチが舞うかのようなくねくねとした動作が懐かしい。

しかし彼はまだ気が付いていない。

私に近寄り

「お一人様ですか？お席にご案内・・・・あれ？」

「はい、私です。キリマン兄ちゃんです」

彼の業務用スマイルが一気に崩れ、くしゃくしゃな笑顔になって語りかけてきた。

「久しぶりぃ♪秋田に帰ったって噂で聞いたけど」

「あ、はい。あの、まぁ、座らせてください」

「あ、そっかそっか。じゃあまずこちらへどうぞ」