Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
――でも。
「それは……できません」
そう呟くように口にしてから、女の子を真っ直ぐに見つめた。
「それはできません。涼太と会わないなんて……考えられない」
なんでなのかはわからない。
でも、この先、涼太と会わないなんて……言葉通り、考えられなかった。私の未来から涼太がいなくなるなんて、無理だ。
見つめる先で、女の子は顔をしかめ、信じられないとでも言いたそうにわなわなと震え始める。
それから「ふざけないで!」と叫ぶように言った。
「どれだけ向井さんを苦しませたら気が済むの?! 唐沢さんが曖昧な態度をとる度に、向井さんはどんどんツラくなるのに……!」
ぐっと歯を食いしばった女の子がこちらにツカツカと近づいてくる。
そして、手を振り上げ、私を叩こうとしたけど……それをうしろから誰かが掴んで止めた。
「勇ましい女の子は可愛いけど、ヒステリーは男にひかれちゃうよ」
叩かれると思って、咄嗟に顔をガードしていた腕の間から見ると、宮地が女の子をそう咎めたところだった。
あくまでも柔らかい声色で「女の子なんだし、顔に傷でも残ったら大変だし」と眉を寄せ微笑んだ宮地を、女の子は威勢よく振り返る。
でも「ん?」と色気たっぷりに聞く宮地を見て、なにも言えなくなったようだった。
宮地は普段から大人の男のフェロモンが駄々漏れしているような感じだし、それにあてられたんだろうなと思う。
たじたじになった女の子は、私を睨みつけると「とにかく、向井さんは渡さないんだから!」と言い残し、大通りに走って消えて行った。
その後ろ姿を眺め、嵐のようにすぎていった出来事に呆然としていると、同じように女の子の走っていった方向を見ていた宮地がこちらを向く。