Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
うっかり目を合せて……にこっと微笑んだ宮地に、しまったと思った。
宮地から逃げてきたっていうのに、女の子との一件があったせいで忘れていた。
もう逃亡を諦め、じっと見つめると、宮地は「唐沢。ちょっといい?」と柔らかく笑った。
裏道沿いの公園を、こんなに頻繁に使うことになるとは思わなかったなぁとしみじみ思う。
今まではただ通り過ぎるだけだったのに、この一週間でこのブランコに座るのは二度目だ。
少し揺らすと、錆びた鎖がキ……とわずかな音を立てた。
公園にある古びた時計が指す時間は、十九時十分。
この間同様、私の斜め前にある柵に腰掛けた宮地の背中を眺めていると、「〝渡さない〟だって。若いなぁ」と突然言われる。
さっきの子の捨て台詞を指しているんだろうと思いながらも黙っていると、顔半分振り向いた宮地が私を見て目を細める。
「まぁ、俺も唐沢に似たようなこと言いにきたんだけど」
似たようなことって……渡さないってこと?と、わけがわからずにいると、宮地が続ける。
「こないだはごめん。俺が悪かった」
情けないような笑みを向けられ、咄嗟に首を振る。
私の方こそ謝らなきゃいけないのにと、慌てて口を開いた。
「ううん。宮地が悪いんじゃないよ。私が悪かったから。……宮地がどういう恋愛観かを知ってたのに、変なこと言ってごめん」
もともと、宮地は男女の付き合いに対して軽い考えしか持っていない。
それを知っていたのに〝軽く言わないで〟なんて、私が勝手だった。
だから謝り……それから、笑顔を向ける。
「だから、宮地ももう忘れて。私も忘れるから、今まで通り同期として仲良くしてほしい」
無理して言ったわけじゃなかった。
金曜日、宮地に〝付き合おう〟って言われて、わかった。本当に、恋愛の価値観が違うんだって。
それは、どう頑張ったって埋まらないものだって……わかった。