Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「俺だってさ、自分の恋愛観はわかってるから、唐沢が好きな男が自分だとは思わないだろ? 唐沢って真面目だし。
でも、どうしても失恋の相手が気になったから鶴野に聞いてみたら、俺だとか言うし……。正直、鶴野に言われた時、その通りだったらいいなって思ったんだ」
「その通りって……」
「唐沢が俺のこと好きだったらいいなって。俺、好きだとか言われた時点でダメだったのに……唐沢が俺を好きかもしれないって思ったら、嬉しくて仕方なかった」
照れたような顔で言われ、どう返したらいいのかわからなくなる。
こんな宮地の顔を見るのは初めてだし……掴まれたままの腕を急に意識してしまい、頬が熱を帯びる。
相変わらず静かな裏道に人通りはなく、宮地の声だけが静かにそこに落ちる。
「この間のはたしかに軽く聞こえたかもしれない。でも、言い方が悪かっただけで、真剣だったし、ふざけてるつもりは微塵もない。唐沢、俺は……」
宮地が言いかけたとき。
それまで私と宮地しかいなかったはずの公園に声が聞こえた。
「――知花」
その声では初めて呼ばれる呼び方だった。
ゆっくりと顔を向ければ、公園に入りこちらに歩いてくる涼太がいて……なんでだかわからないけれど、バツの悪さを感じた。
見られたくなかったという思いが浮かび、宮地に掴まれたままだった腕を軽く振り払う。
宮地はそんな私をじっと見たあと、涼太に視線を移し、にこっと笑った。
「お疲れ。弟くん」
軽いトーンで話しかけた宮地に、涼太は私の隣に立ちながら「お疲れ様です」と真顔で答える。