Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「あんなボロボロ泣きながら、それでも必死に笑おうとしてて……あの時の唐沢の顔も声も、ずっと頭から離れない」
いつものへらへらした笑顔じゃない。軽いトーンじゃない。
穏やかで真剣な声で、宮地が続ける。
「もし、唐沢が他の男にあんな風に泣かされたとしたら、俺はそいつを許さないと思ったし……唐沢があんなに想う相手が他にいるなんて考えたくなかった」
なにを言われているのかが、わからなかった。
言葉の意味は理解できても、それが今までの宮地と重ならなくて……困惑する。
だってこんなの、私の知ってる宮地じゃない。
「今まで、俺は恋愛を真面目に考えてこなかったから、こんなこと言っても信じないかもしれないけど。
俺、前、飲み会で結婚とか価値観とか話題になってから、ずっと唐沢のことばかり考えてた」
いつか、鶴野と一緒に飲んだときのことだとわかり、そのときのことを思い出す。
たしかにその話題が出てから、宮地の雰囲気が少しおかしくなった気はしていたけど……気のせいじゃなかったってこと?
見つめる先。宮地の表情からはいつの間にか微笑みが消えていた。
真面目な瞳が痛いほど私を見ていた。
「その時は、いつか他の男と結婚したら会えなくなるのかとか……嫌だなとか、その程度だった。
でも、唐沢から失恋したって聞いて、そうだよな唐沢だって普通に恋愛するんだよなって考えたら……急に現実味を感じて、なんか、ちょっとへこんだ。
そのうちに本当に唐沢が他の男に連れ去られるのかって考えて」
そこまで言った宮地が、ふっと眉を下げ笑う。