Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「気付いたら……ですか」
曖昧な返事だな、と思いながら呟くと、斜め左の席に座っている松田さんが難しい顔をして首を傾げる。
ふたりとも、持ってきたお弁当はもう空っぽだった。
さっきいれたばかりのコーヒーが、ふたつのマグカップから湯気を立てる。
「本当に俺にもよくわからないんだよなぁ。まさか自分が真剣に恋愛するなんて思ってもみなかったし。それなのに……彼女のことだけは、想う次元が違っててさ。
あんまりこういうことペラペラ話すのもどうかと思うけど……」
そう前置きした松田さんが、情けないような笑みを浮かべ続ける。
「彼女が他の男に告白されたって言ってきてさ。〝この話を聞いて少しも嫌だと思ってもらえないなら、もう友達やめたい〟って真面目な顔で言われて……そん時に、嫌だと思ったんだ。
彼女が他の男のところに行くのも、友達やめてもう会えなくなるのも。それから一気に気付いた感じ」
松田さんの話が、宮地と重なる。
いつか、松田さんが宮地のことを、〝昔の俺みたいだな〟なんて言ってたけど……本当にふたりが似ているんだとしたら、宮地も松田さんみたいに思ったってことなんだろうか。
だとしたら、本当に本気ってことなんだろうか。
『その時は、いつか他の男と結婚したら会えなくなるのかとか……嫌だなとか、その程度だった。でも、唐沢から失恋したって聞いて、そうだよな唐沢だって普通に恋愛するんだよなって考えたら……急に現実味を感じて、なんか、ちょっとへこんだ。
そのうちに本当に唐沢が他の男に連れ去られるのかって考えて』
『どうしても失恋の相手が気になったから鶴野に聞いてみたら、俺だとか言うし……。正直、鶴野に言われた時、その通りだったらいいなって思ったんだ。唐沢が俺のこと好きだったらいいなって』
昨日、公園で宮地が言っていた言葉を思い出し、目を伏せる。