Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「先月もたしか、居酒屋出たところで涼太に会ったよね」
先月の同期会も同じ居酒屋だったけど、お店を出たところで涼太とバッタリ一緒になったのに。
「そうだっけ」と、まるで覚えていないみたいな返事をされる。
「まぁ、忙しい週抜かした金曜日なんていえば、うちの会社の場合限られるし一緒にもなるよね」
私や涼太が勤めているのは、銀行だ。大手と言ってもいいくらい日本中に展開していて、私と宮地は同じ支店に配属されている。涼太は隣の支店。
五十日や月末、ローンの引き落としの日は日中忙しいぶん、残業になることも多い。
週初めや週の終わりは来店客数が増えてバタバタするから、そのなかでも残業をそこそこで切り上げられそうな金曜日……とカレンダーとにらめっこした結果、飲み会が同じ日になるのも珍しくはない。
「でも、涼太のとこの同期も仲いいんだね」
うちと同じで二ヶ月続けてってことだし、と思い言うと「まぁな」と短く返された。
六月の中旬。梅雨入りして少し経つ空には薄い雲が広がり、肌に触れる空気は少しじめったい。
会社から最寄りの駅につき丁度ついた電車に乗り込むと、涼太もそれに続いた。
私も涼太も、ついでに言えば菜穂もひとり暮らしだ。
菜穂と涼太のお父さんが大きな規模の不動産屋をしているから、アパートを決めるときには色々と面倒を見てもらった。
『仲がいいなら、いつでも会える距離にいた方がいいだろ。それに、菜穂も知花ちゃんも初めてのひとり暮らしなんだし、近所の方が心強いだろうしな』
なんて、おじさんに言われるままそれぞれ希望のアパートに引っ越し、そして今年、涼太も同じようにおじさんに言われたのか、近所に引っ越してきた。
距離を言えば、私の部屋から菜穂のアパートまでが徒歩十分。涼太の住む部屋は、ちょうどその真ん中あたりにある。
結構人気の高い土地だって聞くのに、おじさんは簡単に部屋を見つけてきた。
菜穂に聞くと、〝お父さん、結構仕事できるからねー。顔も広いし〟らしい。