Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


「税金、締めちゃっていいですか?」

窓口分と営業預かり分の税金をまとめながら声をかけると、佐藤さんが「うん。お願いー」と返す。

それを聞いてから、集計した税金を課長に提出して、それから伝票の集計に移る。

私がそうしている間に、現金の締めの作業をしていた佐藤さんが現物合計とオンライン上の合計の数字が合っているかどうかを確認し、「合いましたー」と声をあげたのを聞いてホッと胸を撫で下ろした。

これがもし「合いません」だと、そこから各々作業を一度中断し、原因探しを始めなければならなくなる。

私が働き始めてからは、原因探しにかかった時間は長くても二十一時までだったけど、日をまたいだこともあるって話だし、本当に怖い。

それがまた、自分のミスだった場合……もう土下座をした上、翌日全員のお昼をおごってようやく申し訳なさが少し解消されるくらいだろうか。

ひとつのミスが全員の手を止めてしまうことになる。
だから、精査という見直し作業が絶対とされてるんだろう。

伝票も諸届も、必ずふたり以上が確認し印を押すのが規則だ。

数え終わった伝票をトントンと揃え、輪ゴムで十字に止める。
それを金庫内にある所定の位置に置いてひとつ背伸びをしていると、「あれ、唐沢? お疲れ」と声をかけられた。

見れば宮地が金庫に入ってきたところだった。

パチンと電気がつけられ、ほぼ真っ暗だった金庫内が薄暗く照らされる。
薄暗い照明でも、急につけられると眩しく感じた。

「電気くらいつけろよなー。なにも見えないだろ」
「伝票置くだけだったからいいかと思って。宮地、営業終わり?」
「ああ。今日はもう外回りはおしまい。で、これからサッカー」

言いながら、宮地は印鑑票が置かれている棚の前に立つ。


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