Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「ああ、そっか。じゃあ、鶴野も一緒だね」
支店の最寄駅から三駅くらいの場所にあるグラウンドで、宮地と鶴野は週二でサッカーを楽しんでいる。
なんでも、元サッカー選手が作ったクラブらしくて、ただの遊びだって話だけどそこそこレベルが高いらしい。
ふたりが一緒に習い始めて、もう一年が経つ。
「そう。でも、その前に俺の苦手なデスクワークが残ってるけど。……あー、あった」
金庫のなかにあるものは、現金庫と個人情報の詰まった書類が置いてある棚が四台。
基本的にここに置いてあるものは今年度使ったものの綴りで、去年より前のものは三階の倉庫に移動している。
書類によっては永久保存だし、保存期間が十年とされている書類も多いから、膨大な量が倉庫に収まっていることになる。
「私戻るから、宮地出るとき電気消して……」
「あー、ちょっと待って。唐沢、これ同じ印鑑だと思う?」
呼び止められて宮地の手元を覗けば、印鑑が押された書類があった。どうやら融資関係の書類らしい。
それと見比べているのは、今抜いたばかりの印鑑票。
「薄いなぁ……宮地が押したの? これ」
「いや、俺が押すって言う前にお客さんに押されちゃってさー……。ぎりぎり照合できるかと思って押し直しもらわなかったけど……ダメ?」
へらっと甘えるように言われて、眉を潜める。
「本当にギリギリだけど、照合できなくはないんじゃない? でも、課長の判断次第ではもらい直しかもね。こことか特に見えにくいし」
印鑑の端の部分を指さしながら言うと、宮地は「あれ」と小さくもらし、私の指を掴む。
突然触られてビクッとしていると、私の人差し指を持ったまま宮地が言う。