Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
正直な話。宮地への気持ちを最初から諦めていたわけじゃない。
宮地がこういう、やたらと優しくしたり構ってきたりするたびに、いっそ伝えてしまおうかと考えた。
恋愛の価値観が違っていても、もしかしたら……なんて期待だってした。
ただ、宮地には彼女がいたからできなかっただけで。
宮地には彼女がいるって事実で必死に抑えていた想いが、胸の奥底でざわりと動く。
海の底、鎖でグルグル巻きにした箱の鎖が外れ、開き始めた箱の中から空気が溢れたような、そんな気分だった。
コポリ……と浮かんできた空気に、ダメだダメだと気を取り戻そうとしていたとき、隣のドアの鍵がガチャリと開いた音が聞こえ、ハッとする。
誰か営業が戻ってきたのかもしれない。
「正直、あんまり真剣に付き合ってたわけでもないしさ、そんなこと言われたら面倒くさくなって、じゃあ……って俺から言った。
すげー泣かれて引っぱたかれたから、しばらくあの店いけない。あの、駅前のパスタ屋」
へらへらとした顔で言う宮地に、騒いでしまっている胸を隠すようにひとつため息をつく。
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。
それからなんでもない声を作って「そんな話、外でしてたの?」と聞くと「だって会ったときは、そんな話になると思わなかったし」と返され、まぁそれもそうだなと思った。
なにげない話から険悪なムードになって、そのまま……ってとこなんだろう。
彼女の方からしたら、決して別れに繋がってしまうなんて考えての発言じゃなかったのかもしれない。
きっと宮地の気を引きたかっただけだ。