Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


給湯室は、行員用出入り口のすぐ横にある。

そのためか、営業が外回りから戻ってきたあと、給湯室の前で一服してからデスクに戻るのがこの支店では日常の光景となっているけど、今は無人だった。

給湯室に電気をつけた宮地が、「救急箱は……えーっと……」と呟きながら、救急箱のなかから消毒液と絆創膏を取り出す。

「ん。見せてみ」

抵抗を諦めて素直に人差し指を出すと、宮地がそこに消毒液をかけ、ティッシュで軽くふく。

「気をつけろよなー。紙幣も硬貨もばい菌だらけなんだから。まぁ、仕事内容がほぼ紙の相手だし切るのは仕方ないけど」

絆創膏を貼ってくれたことに「ありがと」とお礼を言う。
それから「でも」と眉を寄せて宮地を見上げた。

「宮地、彼女いるんでしょ。こういうの、あまりよく思わないだろうから気を付けたほうがいいよ。
宮地は男女間の友情とかで片付けることも、彼女はそうもいかないかもだし」

正直、私だって〝友情〟じゃ片付けられないし。
こうやって優しくされたら、可能性なんてないってわかりながらも、いちいちバカみたいに期待しちゃうし。

そう声には出せずにいると、宮地は「あー……それがさ」と気まずそうに笑う。

「別れたんだよね。なんか……今、唐沢が言ったような理由が原因で」

思わず「え……」ともらすと、宮地が続ける。

「俺、同期の飲み会とかよく出るじゃん。それを理由に彼女の誘い断ったりしてたんだけど、そのうちに飲み会メンバーに女はいるのか、みたいな話になってさ。
いるって言ったら、自分より同期の女を優先されてるみたいで嫌だって言われて……それで」

はは……っと苦笑いで言った宮地に、しばらく返す言葉が見つからなかった。だって、あまりに急すぎて。

「別れたって……」と無意識にこぼれた声に、宮地は自嘲するみたいな笑みを浮かべて「五日前くらいだったかな」と返した。



< 24 / 183 >

この作品をシェア

pagetop