Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
その時の光景がポンとすぐに浮かぶのは、今まで何度かそういう場面を目にしているからだろう。
宮地は、整った顔立ちと漏れ出ている男性フェロモンでやたらとモテるから。
仕切りのないお店で飲んだりしていると、他の席から熱い視線が送られてくることも少なくない。
そして、宮地がトイレに立ったとき、そのお姉さん方になにやらメモを渡されているところを見てしまうのも、もう数度経験済みだ。
受け取ったメモを宮地がどうしたかは怖くて聞けたことがないけれど。
「で、モテ男の宮地くんは、あのあとどうしたんですかねー。ひとり持ち帰ってましたけどー」
わざとそんな風に聞いてくる鶴野に、宮地は、ははっと笑ってジョッキに手を伸ばす。
「鶴野が思うような展開にはなんなかったけど。そもそもタイプじゃなかったし、駅まで送っておしまい」
小皿に残っているのは、じゃがいもとにんじんがひとつずつ。味がしっかり染みこんだじゃがいもを箸でつかみ口に入れると、すぐに形がなくなった。
「おまえ……あれがタイプじゃないって、どんだけ理想高いんだよ」
「別に普通だって。ただ、可愛い系よりは綺麗系のほうがタイプとかあるじゃん。そういう感じ。それに俺、追われるよりは追いたいし」
「それはあれだ。追ってくれる子がいるからこそ言える台詞だ」と顔をしかめた鶴野が、「この贅沢者め」と、また大きなため息を落とす。
床にのめり込むんじゃないかなってくらいの重たさのため息を聞きながら、肉じゃがに箸を伸ばしていると、鶴野の視線が私に向く。
「鶴野、どうかした?」
ギン、と強い眼差しで見られ目をパチパチしていると、鶴野は表情を一気に情けなく崩した。