Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「いくら同期でも、寂しさ紛らわす道具としてこいつを使おうとするのは見逃せない。軽い気持ちで万が一にでも手なんか出したら……わかるよな?」
私の位置からじゃ宮地の表情は見えない。
でも、声のトーンが少し下がったのはわかった。
言葉を向けられた鶴野も、いくら酔っていてもそれはわかったのか、一瞬真顔になってから呆れたような笑みを浮かべる。
「冗談だよ。ただの冗談」
「そう? ならいいけど」
声に柔らかさが戻った宮地に、鶴野が言う。
「しかしさー、宮地って彼女には束縛とかまったくしないのに、唐沢にだけは独占欲みたいなの発揮するよなー。だから俺が、恋仲なんじゃないかって勘違いするんだよ。そんなベタベタするとか、そうも思うじゃん」
「そうか?」と不思議そうにする宮地の腕の中から、ようやく抜け出す。
宮地からしたらなんでもないスキンシップなんだろうけれど、私の心臓への負担は大きすぎる。
呪文の効かないドキドキと高鳴る胸を隠すように、肩上の長さの髪を手櫛で直していると「ああ、ごめん。乱れちゃったか?」と聞かれるから「平気」とだけ答えた。
顔は赤くなってないかな、不自然じゃなかったかな、と心配になる。
きちんと〝同期〟の反応が返せているだろうかと。
「しかし、男女間の友情って成り立つもんだんだなー。おまえら見て初めて納得した」
そうへらへらと呑気に笑う鶴野に叫んでやりたい。
少なくともそんなもの私の中では存在しないと。
「なんでもかんでも男か女で線引きすんのなんておかしいだろ。性格さえ合えば、なんの問題もないし」
曇りのない笑顔で「な」と同意を求めてくる宮地に、愛想笑いだけ返してジョッキに入ったビールをあおった。