俺様御曹司とナイショの社内恋愛
「前のままで、よかったんです。
平穏で、ささやかな満足感を積みかさねてる毎日で、幸せでした。
周りの人と助け合って仕事をして、大きな成果じゃなかったかもしれないけど・・・わたしにはそれで十分だったのに」

住宅環境部は、郁にとって自分を受け入れてくれる、繭のような居場所だった。
その場所を奪われ、望んでもいない異動をさせられ、未知の業務に混乱するばかり。
それなのに、白石と組んでいることで、他の女子社員からはやっかみや反感を買いかねないなんて、泣きっ面に蜂だ。

しゃべるうちに、鼻の奥はツンとして、目の縁が熱くなってくるのが分かる。
泣いたらダメだ、郁。

「手を出してくる上司もいないしね」

「・・・・・」
言うか、それを言うか。

ためらわず、彼が足を踏み出してくる。後ずさろうにも、白石の動きのほうがはるかに速い。

タンッ、と彼が郁を挟むように、手すりに両手をつく。

こちらを覗きこんでくる彼の瞳の強さに、緊張感が身体を支配する。

「———ささやかな幸せ、がきみの求めてるものなら、俺にはその望みは叶えてやれない」

なにもあなたにそれを・・・

「溺れるくらい、壊れるくらいじゃなきゃ、意味がない」

「・・・・———っ!」
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