俺様御曹司とナイショの社内恋愛
デスクに戻ってパソコンをチェックしてみれば、スケジュールにすでに【取引先訪問】と入力されていた。

白石は隣で、何やら書類の束を鞄に入れている。
その涼やかな横顔には、先ほど屋上で見せた放埓さの名残などみじんもない。

仕事は仕事、女は女・・・切り替えの早さも、有能さのうちなのか。

それに比べて自分は・・・
キスぐらいと言いきかせようにも、動悸が収まらない。

27歳って、もっと大人の女じゃなかったのか。
たとえるなら、髪をゆるく巻いて、ナラカミーチェのブラウスがよく似合って、ボーム&メルシエの時計をさりげなくつけているような。

現実は、年下の上司に振り回されて、涙まで見せそうになっている、みっともない自分。

それでも・・・イヤだろうと、自信がなかろうと、彼のアシスタントになったからには、お荷物にはなりたくない。そんな妙な意地もある。

遅ればせながら、検索サイトを呼び出して、“乙女ゲーム” と入力してみる。

先週、白石は雪瀬と雑談まじりに、市場規模や業界の動向のことも口にしていた。

そこまではできなくても、基本用語くらい覚えないと・・・
画面をにらんで、なんとか意識を集中させようする。




「雪瀬さん、連日押しかけてすみません」
まったくすまないと思っていない調子で、白石が挨拶する。

いえ、かまいませんよ、と雪瀬も鷹揚なものだ。
「なんせ、あまり忙しくないもんで」
自嘲気味な口調だ。

出されたお茶を一口すすって、おもむろに「差し出がましいんですが、今日はゲームの提案書をお持ちしました」と白石が口火を切った。
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