俺様御曹司とナイショの社内恋愛
思考にふけることしばし、夢からさめたように、雪瀬が顔を上げた。

体をひねると、たまたま後ろを通りかかった女性社員を呼び止める。

「なあおい、たしか今日スチルの打ち合わせで、なるみ先生が来てただろ。
ちょっと呼んでくれないか」

なるみ先生?

イラストレーターの方だよ。この業界じゃ絵師さんっていわれることが多いけど。
白石が耳打ちしてくれる。

絵師さん・・・イラストレーターを呼んで、これから何が始まろうとしているのか。

雪瀬と白石が発する気とでもいうべきものがざわめいているのを、肌で感じる。そしてそれは、郁にも伝染する。

待つことしばし、「こんにちはー」とあらわれたのは、三十代とおぼしき女性だった。
長い髪をうなじのところでゆるく結んで、前にたらしている。襟元のボタンを一つ二つあけたピンストライプのシャツに、淡色のパンツというシンプルな装いだが、どこか垢抜けた雰囲気が漂うのは、イラストレーターという職業のせいだろうか。
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