それはちょっと
あっ、これはもしかしなくてもキスされる。

予想通り、部長の端正な顔が近づいてきたので私は目を閉じた。

「――ッ…」

離れていた時間はほんのわずかなのに、部長からキスされたのは久しぶりのような気がした。

触れるだけだったそれはすぐに私の唇から離れた。

目を開けると、眼鏡越しの瞳と目があった。

「もう1度、キスをしていい?」

私と目があうと、部長が聞いてきた。

「えっ…」

「南くん不足だから」

「ぶ、不足って…」

部長の顔が近づいてきて、また唇を重ねられた。

私は鉄分か糖分じゃないんですけど…。

そう思っていても、部長からのキスが嬉しいことには変わりはない。

私も何だかんだで彼を欲していたようだ。

ここがオフィスであることを忘れて、時間が経っていることにも気づかないで、私は部長の唇を感じていた。
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