【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
■相馬side□




「……沙耶、か?」


目の前の、浴衣を着た女。


「ん?お疲れ様、相馬」


沙耶は振り返って、俺に微笑む。


「なんで、その格好……いや、夏祭りにつれていくつもりだったんだが……」


「えっ……!そうだったの?それで、わざわざ、迎えを?」


「……一人のお前に、何かあったらいけねぇから……」


「?……何かって、家でゴロゴロしてたんだけど。でも、ありがと!」


しっかり結われた、美しい黒髪。

それを飾るのは、鮮やかな花の髪飾り。

顔に咲くのは、美しい笑み。


「楽しもうな」


姿はとても麗しいのに、中身は幼子のよう。


「ふふふ、京子さんにナンパされたときは驚いたけど……こんな綺麗な浴衣を貸してもらえるなんて」


「姉さんに?」


家を空けるから、宜しくと言っていたくせに。


沙耶のための浴衣を買いに行ってたのか。


それなら、そうと言えば、いいものを。


「うん。ブラブラしていたら、声をかけられて。久しぶりに見た美貌に、眩暈がしたわ」


「……美貌?」


姉さんなんて、ただ、気の強い人だと思うのだが。


「あんたは自覚がないから」


首をかしげると、ため息をつかれた。


……容姿のことについては、こいつに言われたくないのだが。


波打った長い黒髪、パッチリとした二重の漆黒の瞳。果実のような赤い唇に、スラッとした身体。


身長は……165くらいか。


昔から容姿と家柄のせいで虐められてきたことに対しては自覚がないようなので、言わないでおこう。


言ったら、

『変えようないし』と言って、余計に敵を作りそうだ。


「お祭りって、何時からだっけ?」

ワクワクしているらしく、楽しそうな沙耶。

普段、ポーカーフェイスな彼女がこんな顔をするのは、珍しい。


「そろそろ、始まる。……行くか」


「うん!」


その笑顔が可愛くて、このお祭りでもっと笑ってくれたら、と、思った。


「屋台!屋台!」


……細いくせに、やっぱり、食べるのは好きなんだなと、相変わらずの花より団子の精神に、笑みが漏れた。


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