【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
■相馬side□




「いるよ。好きな人」


当たり前のように、そう言った沙耶。


(いるのか……!?)


そう思ってしまったのは、許してほしい。


「え、なに、ボーッとしてんの?そんなに、意外?」


「いや……まあ……」


「私も花も恥じらうお年頃なんだから、恋してもおかしくはないでしょう?」


「いや、分かっているが……」


俺が言いたいのは、そんなことではない。


「じゃあ、色々とまずいんじゃないのか?」


「何が」


「俺と行動していると」


自分の痛む心は見ないふりいて尋ねれば、沙耶は笑い飛ばした。


「いいよ!叶わないし!気にしなくて、大丈夫」


「……」


「……暗いなー。大丈夫だよ?」


沙耶は笑いながら、目の前で手を振ってくるけど、諦めているという事だろうか。


(恋愛なんてしていないのかと思っていた……)


痛みが、どんどん強くなってくる。

(こんな考えは、最低だと分かっているのに……)


「そうかよ……わり、ちょっと風に当たってくる」

このままここに居たら、沙耶に余計なことを言ってしまいそうで、怖くなった。


「兄さん……」


「ちょっと、風に当たってくるだけだって」


身体の中で、心の奥底で、草志が叫んでいる。


感情に任せて、余計なことは言わない。


母親の時に、そう決めたじゃないか。


自分に言い聞かせるように、繰り返す。


すると、もっと虚しくなった。


「ちょっ……相馬!?」


驚いたのか追いかけてこようとする沙耶を振り返って、笑う。


「一人で大丈夫だから、お前は飯食ってな」


大きくなりそうで、ならない。


最低なことを散々しているくせに、沙耶に好きな人がいるということだけで裏切られた感になるのは、間違っている。


分かっているんだ。


何百年とかけ、生まれ変わって、来世では、と約束していた相手。それが、こんなちょっとしたすれ違いですべてがダメになる。


「……」


庭先に出て、相馬はため息をついた。


(夕蘭……)


月を見上げた。今日は満月の日。


「……よく、わかんねーな。人間ってやつは……」


感情のままに、呟く。


その呟きは、誰の耳に届くこともなかった。


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