【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「すごいな……」


「仕える相手のことですから。覚えていて、当然。と」


自由させているぶん、ちゃんと、幼い頃に教育しているのか。


……御園のように。


「厳しくはなかった、けど、きっちり、教え込まれました」


そして、沙耶はそれらをすべて、完璧にこなしてきたのだろう。


だから、一挙一動、お嬢様のような、洗練された部分がたまにかいま見えるのだ。


「……そういえば、相馬、遅いですね。見てきても良いでしょうか?」


「なら、これを持ってき」


「わぁ、お団子!ありがとうございます!京子さん!」


子供みたいな表情。


それでいて、たまに見せる大人びた顔。


基本的に美しい彼女は、それだけで、男を惹き付ける。


「うちの料理人、土倉の得意料理のひとつや。正直言って、うちの店んのよりも旨い。相馬と食い?」


「やったー!」


盛大に喜ぶと、沙耶は部屋を出ていく。


沙耶の出ていった戸を見て、


「……相馬は、沙耶に心開いとる」


と、呟く。


「うちらにも開かんかった心を、沙耶にだけ開いとる。端から見れば、一目瞭然なんやけどなぁ。沙耶も色々と抱えとるし……結婚して、沙耶が本当にうちの妹になってくれたら……」



「……自分も安心できるって?」


陽向が確信をつくように言うと、京子は困ったように笑った。


「せやね……最低かもしれんけど、相馬が幸せになるまでは、うちの仕事は終われんのや」


――御園京子。齢、25。独身。恋人なし。
学生時代は、家業の舞の練習に遅くまで取り組み、友達も真琴だけと言っても過言ではないほど。大学には行かず、体の弱い兄の総一郎に変わって、相馬と家を支える女の子。


俺らからすれば、京子も相馬もまだ、子供。


御園という家がなければ、叶ったかもしれない、彼女達の一般的な普通の未来。

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