偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
光一さんは私と目を合わせて、くすりと笑う。
「自分以外の誰かを、こんな風に思える日がくるなんてな。想像もしてなかったよ」

光一さんにそんな風に言ってもらえるなんて、私も想像もしてなかった。
嬉しくて、幸せで、また涙があふれた。

(私も光一さんの為に、なにができるのかをちゃんと考えよう)

「あのね、光一さん!もし、光一さんに好きな人と子どもがいるなら、私、身を引く覚悟はできたから。正直に打ち明けてくれていいからね」
「やっぱり、そこか……」
光一さんは眉根をよせて、頭を抱えた。
「それに関しては、先に説明しとかなかった俺が全面的に悪い。今から、きちんと話すから。証人も呼んでるし。ーーあ、来たな」
インターホンが鳴って、光一さんか玄関に目を向ける。
「起きれるか?紹介したい人がいるんだ」

ダイニングテーブルを挟んで、光一さんと私の向かいに座るのは、長い巻き髪のゴージャスな美女と来月で一歳になるという元気な男の子だった。
美女は優雅な仕草で、光一さんがいれたコーヒーを飲んでいる。
セレブの休日といったところだろうか。少なくとも、正妻に呼び出された愛人の雰囲気は微塵も感じさせない。

(いや、子どもまでいるんだから、もしかして、この人が正妻?)

「うふふ。光一の愛人だと思ってるんでしょ?」
切れ長の、宝石のように美しい双眸が私を見すえた。
美女の美女がゆえの威圧感に、私は思いきりひるんでしまう。
「いえいえ、とんでもない。愛人は私のほうで」
「そうよね~。後から出てきたのはそっちだもんねぇ」
「ご、ごめんなさ……」
これがドラマのワンシーンなら、彼女はきっと煙草を吸っていて、私に向かってふーと煙を吐き出すという演出がなされるに違いない。ひと昔前なら、続く台詞は多分、『この泥棒猫!』だ。

「落ち着け、華。梨花、悪ノリやめろ」
光一さんに梨花と呼ばれたその人は、ぷーっと盛大にふきだした。
笑い上戸なのか、目じりに涙を浮かべて大笑いしている。

「いや~、いいね、いいね!かわいい義妹で、私も嬉しいわ」









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