偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
先に口を開いたのは光一さんの方だった。
「なんで、自分の家庭で起きている重大な事件を妻からじゃなく、他人の松島から聞かなきゃならないんだ?」
静かだが、怒気を帯びた声だった。
私が答えないでいると、光一さんはなおも続けた。
「……俺より松島のほうが信用できるってことか。まぁそうかもな、松島も結婚相手には最適のエリートだしな。あいつはまだ独身だし、頑張ってみたら?」
冷たい目で私を見下して、そんなことを言う。私の中で、なにかがはじけた。
(な、なによ。それ)
私は怒りをこめた目で、彼をにらみつけた。
「なんなのよ、いきなり! 私はともかく松島さんに失礼すぎる。最低だよ、光一さん。そんな人だなんて見損なった!」
「友達の嫁とコソコソ会ってるのは、失礼じゃないのかよ」
「はぁ〜?コソコソなんて会ってないですから!さっき偶然、会っただけ」
「……夕方からずっと一緒だっただろ。なんで嘘つくんだよ、華もあいつも」
光一さんはそう吐き捨てて、私から目をそらした。彼の横顔が、とても寂しそうに見える。

(え?夕方って……カフェでの話?)

「ちょっと待ってよ。光一さん、なんか誤解してる。たしかに、夕方に会社近くのカフェでも会ったけど。あの後、私はマンションに戻ったし、松島さんは会社に……」
「はっ。ずいぶんと、都合よく偶然が続くんだな」

私は誤解をとこうと話をしようとしているのに、彼はまったく取り合おうともしない。

そもそも、松島さんとどうこうとか……そんなことを疑われてしまうことが、悲しくて虚しかった。
夫婦になろうと一生懸命頑張ってきたつもりだったけれど、私はそんなにも信頼がないのか。

私はかっとなって、思わず手を振り上げた。光一さんの頬を叩こうとして、直前で手を止めた。

「……もういい。そんなこと疑われてるなら、もういいよ。大体、もし私と松島さんがデートしてたとしても、光一さんにそれを責める権利があるの?」「どういう意味だ?」
光一さんは片方の眉をつりあげた。


< 93 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop