偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「そんなこと言ってると、こっちの経理あたりに異動させられちゃうわよ。つまんないわよ〜おじさん、おばさんしかいない職場なんて」
「あはは」

小林さんと雑談をしながら、社内メールをチェックする。見慣れないアドレスを見つけて、メールを開いた。
光一さんだった。私があまりにもスマホを無視するから、社内メールを送ってきたのだろう。
胸の奥がずきずきと痛むのを感じながら、文面を追った。

『華へ 話がしたい。うちへの嫌がらせの件も心配なことがある。仕事が終わり次第、迎えに行くから会社で待ってて。絶対にひとりで動くなよ』

(心配してくれてるんだ……)
光一さんと話をしなければ、なにも解決しない。それは私もわかっているのだ。迷ったすえに、返信のメッセージを送った。

『わかりました。本社近くのカフェなかにかで待ってるので、仕事が終わったら連絡ください』


本当は今日は花園商事に戻る予定はなかった。けれど、おそらく光一さんのほうが仕事が終わるのが遅いはず。それならば、私があっちに戻ったほうが効率がいいだろう。

資料整理という地味で単調な作業は、いまの私にはありがたかった。
ゆっくりと気持ちを落ち着けて、今夜、光一さんの口からどんな言葉が飛び出ても取り乱さないよう覚悟を決めなければ。

『もうすぐ本社に着きます。私も遅くなったので、本社のエントランスの前で待ってます』
私はメッセージを打ちながら、本社ビルに向かって足早に歩いていた。
腕時計の針は、午後七時を指している。
資料整理じたいは定時に終わったのだけれど、課長の長話に付き合わされて、すっかり遅くなってしまった。
光一のほうも7時半には仕事を切り上げられると連絡があったので、カフェではなく本社待ち合わせに変更することにしたのだ。







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