恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「あの……あのっ、あなたの名前はっ」
「ん? 俺は──」
心臓が壊れそうだった。
こんな事を聞くなんて、おかしいってわかってる。
目の前にいる人が何者かなんて、本当はもうとっくに気づいていたのかもしれない。
予感が確信に変わる瞬間。
それでも信じられなくて、確認するように彼に尋ねてしまう。
なにが真実で偽りなのか、その境界線も明確じゃない今がとてつもなく──怖かった。
「──藤原雅臣だ」
「あっ……あなたが、雅臣、先輩……」
求めていた答えだった。
何度も私は、彼を雅臣先輩と呼んていたじゃないか。
だからおかしい事はなにもない。
そんな気休めを自分に言い聞かせてみるけれど、やっぱり駄目だ。
私の中に、雅臣先輩はふたり存在する。
私は目の前の彼とは別の、もうひとりの彼を同じ名前で呼んでいたのだ。
急に別の人だったなんて言われたって、意味わからないよ。
「こうして会えたのもなにかの縁だし、よろしくね」
にっこりと、あの頃と変わらない陽だまりの笑顔で手を差し出す雅臣先輩。
私の過去を知っているはずなのに、振る舞いはまるで他人のようだ。
──忘れてしまったんですか、雅臣先輩。
──そして、私を騙していたんですか、景臣先輩。
「っ……」
突然に分かたれたひとりの存在に、私は息を詰まらせた。
差し出された手も取れずに、勢いよくベンチから立ち上がると、座ったままの彼を責めるように見下ろした。