恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「本当に……本当にあなたは雅臣先輩ですか」


自分でも驚くくらい低い声で、私は雅臣先輩に何度目かわからない問いかけをする。


「不思議な事を聞くんだな、本当だよ」


雅臣先輩だと名乗る目の前の彼は、後頭部に手を当てて困ったように笑う。

違う、本当に君が雅臣先輩なら、わかるはずなんだ。


「あなたが雅臣先輩だというのなら……」


やっぱり、中学生の頃の事なんて忘れてしまったのかな。

離れていた間に彼にはたくさんの出会いがあったはず。私なんて、簡単に忘れられる。その程度の存在だったんだ。

中学の古典研究部での記憶。それは雅臣先輩にとって、大切でもなんでもない日々だったのかもしれない。

宝物に思っていたのは、私の独りよがりだったのだろうか。


「どうして、私の事がわからないんですか?」


どうして……会いたかったって言ってくれないの?

胸が締め付けられてるみたいに苦しくて、目元が熱くなったと思ったら視界が歪んでいく。

君が……私の知る君なら、私が恋した君なら……。


「どうして、私を清奈って呼んでくれないんですか!」

せり上がる悲しみを、吐き出すように言った。

夢から覚めたみたいに、彼はハッとした顔で口を開く。

「清奈……?」

「あっ……」


──名前、呼んでくれた。

もしかして、思いだしてくれた?

そんな期待が胸いっぱいに膨らんだ私は、口元を緩める。


「ごめん、やっぱり覚えてない……」


膨らんだ風船に鉛筆を差したみたいに、瞬間的に沈んでいく期待。

代わりに絶望が膨れ上がって、涙となり頬を落ちる。

なんで、どうして……。

君から、私の存在が消えてしまっているの?

彼は申し訳なさそうに俯いて、膝の上で拳を握っていた。
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