恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。



「ごめんなさい、弱音はいたりして。背中を押してくれて、ありがとうございます」


私のために叱ってくれたんだよね。

ちゃんとそれがわかるから、嬉しくて胸が熱くなる。

業吉先輩は「まったく、世話が焼けるな」と言って頭を撫でてくれた。


「それから、そばにいてくれてありがとう、紫ちゃん」


私の言葉に、紫ちゃんは首を横に振って「友達で仲間なんだから、当たり前だよ」と微笑んだ。


「みんなで探せば、見つかるはずだ」

「景臣先輩に私達の気持ち、伝えに行こうよ」


業吉先輩、紫ちゃん……。

さっきまで、真っ暗な世界にひとりでいるような心細さがあった。

私には何も出来ないって、自分がひどく無力な人間に思えて、苦しかった。

けれど、ふたりのおかげで私の心が奮い立つ。

私も業吉先輩や紫ちゃんのように強くならなきゃと思う。

仲間って守り合うだけじゃなく、こういうふうにお互いを高め合う事もできるんだ。


「うん、行こう!」


みんなで顔を見合わせて頷き合った時、「それなら先生も、協力するわ」と小町先生が現れた。

先生が部室の入口でジャラッと音を立てて見せたのは、車の鍵だった。


「小町先生、でも……」


そんな事したら小町先生が怒られちゃうんじゃ……。

ただでさえ朝霧先輩との事で目をつけられてるのに、教頭にバレて学校を辞めさせられたりしたら、自分を許せなくなる。

それだけは絶対に嫌だったので、引き止めようとした私に気づいてか、先生は先に口を開く。


「大丈夫よ、今はこうする事が正しいって思うの」


小町先生は、そう言って強気に笑った。

その顔を見たら、何を言っても先生は折れないだろうと悟る。

だって、先生の意思の強い瞳から決意の固さが感じ取れたから。


「……じゃあ、小町先生が怒られちゃったら、私達が先生の事を守りますね!」


先生も私たちの仲間、だからこそ断るのはやめた。

景臣先輩が作ってくれた古典研究部という居場所。そんな居場所に救われた私達が、みんなで景臣先輩を迎えに行く事に意味がある気がしたからだ。

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