恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「あからさまに、興味なさそうだな」
態度に出ていたのか、雅臣先輩は苦笑いした。
言われてみれば、返答が雑だったような気もする。
ばつが悪くなった私は、視線を宙に漂わせて思考を巡らせると言い訳を探した。
「私は軍記ものより、恋の和歌がいいです。“乙女”なんで」
「ははは」
え、そこ笑うところ?
まるで「お前が乙女か、ハッ」的な感じで、鼻で笑ったように思えて、失礼だなとむくれる。
「笑い事じゃないです」
「悪い、でも、平家物語もいいもんだぞ」
雅臣先輩は妹にでもするように軽く、私の頭に手をポンポンと乗せた。
それにトクンッと心臓が小さく跳ねる。
私の気持ちを知らないで……。
好きだからこそ、そうじゃないフリをするのは自分の心にも嘘をついているみたいで苦しい。
それでも気持ちを伝えたらきみは困るだろうから、だからいつも通りただの後輩としてそばにいるのに……。
触れられたら、嫌でも意識してしまう。
想いが溢れて、思わず『好き』だと伝えてしまいそうになる。
そう、好きは無限に生まれてくるものなのだと思う。
家族に向ける好き、友人に向ける好き、たったひとりに向ける好き、きっと底などないのだ。
だからこそタチが悪い。
一度覚えた好きは、簡単にはこの胸から消えてくれないから。こうして会えば会うほど、言葉を交わせば交わすほど、触れれば触れるほど、強く、深く、想いは確かなものになっていく。
だから、こういうふうに頭を撫でられたりしたら、やっぱりきみが好きだって思ってしまうじゃないか。
そんな葛藤を彼に悟られないように、私は笑顔を貼り付ける。
「えぇー、どこら辺がですか?」
平静を装って、面倒そうに振る舞う。
大丈夫、いつもの私になれてる。
そう自分を励ましながら、彼の反応を待った。
私の気づかないで、という切なる願いが通じたのか、雅臣先輩は本の表紙を手のひらで撫でながら「それはだな……」と得意げに話し出す。
「平家の栄華と没落……前半、平清盛が主人公である部分の古文は、なかなかに切なく身に染みる言葉に溢れているぞ」
「へぇ……」
雅臣先輩が言うと、どんなに硬く難しい話でも興味が惹かれるから不思議だ。
和歌だって、最初は何言ってるかわからないし、長いからってまったく興味がもてなかった。
なのに、雅臣先輩の楽しそうに和歌を詠む姿を思い出したら、自然と自分もその世界をのぞいてみたいと思うようになっていた。
「例えばだな……」
雅臣先輩が言いかけた時だった。