恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「それで私の会いたい人とやらは、どこにいるんです?」
放課後、言われた通りに部室へやってきた私は、窓際に立ってふわりと微笑む雅臣先輩に尋ねる。
「焦るな、とりあえず好きなように過ごせ」
「は、はぁ……」
ニコニコ楽しそうに笑いながら、彼は真意を話そうとはしない。
こういう謎かけみたいな話し方をする時、彼に教える気はないということだ。
私は諦めて、立っている雅臣先輩の前の席に腰掛ける。
好きなようにって言われてもね……。
何をしようかと考えて、ふと雅臣先輩の持っている一冊の本が目に入る。
「雅臣先輩、その本……今は、何を読んでいるんですか?」
私の貴重なワクワク感に突き動かされて、興味津々に先輩の方へ体を向けた。
「あぁ、これか。鎌倉時代の軍記物語、平家物語だ」
「あぁ、平家物語ですか」
軍記ものは、そんなに好きじゃない。
雅臣先輩の影響だけれど、私は言葉や音、意味も美しい恋を詠った百人一首のような和歌が好きなのだ。