恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「周りが楽しそうに騒いでいる中、小説に集中している間はひとりぼっちの惨めさを忘れられたんだ」
「物部さん……」
「でも、小泉さんが現れてくれた」
「え、私?」
そこで自分の名前が出てくるとは思っていなかった私は、驚きの声を上げる。
私は振り返ってみても、彼女にはやっぱりその他大勢の同級生と同じ対応しかしていなかったと思う。
なのにどうして私が現れてくれたなんて、言ってくれるんだろう。
「入学式の日、誰かと友達になれるだなんて、はなから諦めていた私に、小泉さんは話しかけてくれた」
「あれは……」
当たり障りない、ただの挨拶だ。
それ以上でも以下でもない、薄っぺらい言葉だった。
「嬉しかったんだ。はじめて誰かが、私を見つめてくれたから」
「──っ!」
そのひと言に、私は驚いて目を開く。
ただ、自己紹介しただけだった。
特別な意味なんて、なかったんだ。
でもそれを、こんなに嬉しいと思ってくれていただなんて……。
迷子だった私が、雅臣先輩に見つけてもらえたように。
私も彼女にとって、少しは救いになれていたのだろうか。