恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「私も……和歌が好きな人ってあんまりいないから、物部さんとこうして話ができて嬉しい」
「……よかった、やっと話せた」
「え?」
やっと話せたって……どういう意味だろう。
帰宅する生徒や部活に向かう生徒たちに追い抜かされながら、私たちは廊下の真ん中で見つめ合うようにして立ち止まる。
「本当はね、小泉さんに『おはよう』とか、『また明日』って言われるたびに嬉しかったの。ずっと返事をしたかったんだ」
両手を握りしめながら、モジモジと恥ずかしそうにする彼女の口から告げられた言葉。
目も合わないし、会話にもならないし、私はてっきり話したくないのだと思っていたけれど……。
「もしかして……」
話しかけるたびに困ったような顔をしていたのは、迷惑とかじゃなくて、話そうとしてもできなかったからなのかもしれない。
「私、中学の時からあんまりクラスにとけ込めなくて……」
「うん」
「そんな自分が恥ずかしくて、逃げるみたいにクラスでも小説を書くようになったんだ」
それで、いつもスマホを眺めてたんだ。
誰とも関わりたくなくて、そうしたんじゃなかったんだ。
もっと早く気づいてあげられてたら、よかった。
私は雅臣先輩のように、あまり人の気持ちに敏感な方ではないから、きっと彼女のSOSを見落としてしまっていたんだろう。
というより、私が物部さんに踏み込もうとしなかったからなんだろうな。
浅く広い交友関係でいた方が楽だって、そう決めつけていたから。