イジワル部長と仮りそめ恋人契約
……いいなあ。


自然とそう思ってしまって、ハッと我に返った。

い、『いいな』ってなに、私。

そりゃあさ、今までずっと彼氏いなかったから、好きな人とあんなふうにいちゃいちゃするの、たしかに憧れてたよ?

でも、ついさっき私がその相手に思い浮かべてしまったのが……不覚にも、今まさに隣にいる悠悟さんの姿で。

いや、この人は、偽の彼氏なんだってば。ただの、期間限定の恋人でしかないんだってば。

悠悟さん本人だって、言っていた。私に、手を出す気はないって。

だから、だから──あんな触れ合い夢見たところで、その気持ちは不毛でしかなくて。ただの残念な女にしか、ならないじゃないか。


なんてことを考えながら、失礼とは思いつつも控えめにちらちら視線を送っていた矢先。

そのカップルが、なんとキスをし始めてしまった。

つい小さく「えっ」と声を上げてしまい、慌てて手のひらで口もとを押さえる。

ひえええ! こんなところで! 私たちもいるのに! キスなんて!

もはや頭の中はパニック状態だ。見知らぬカップルのキスはまだ続いている。

口もとを押さえたまま視線を剥がせずにいる私の頭上から、不意にバサリと何かが降ってきて視界が狭くなった。



「見すぎ」



次いで落とされたつぶやきに顔を上げれば、呆れたようなジト目で私を流し見る悠悟さんの姿。

そして、今さらながら自分に掛けられたものの正体に気づく。……これ、悠悟さんのジャケットだ。



「見す……そ、そんな私、見てました?」

「見てた。自分が経験ないから、興味津々なのはわかりますけどー」

「そっ、そんなことっ」



恥ずかしくて、かあっと頬が熱くなる。

誤魔化すようにジャケットを掴んで彼に返そうとしたら、「いーから羽織っとけ」と今度は肩に掛けられてしまった。

……優しいのか意地悪なのか、ほんと、よくわからない人だ。
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