イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「……悠悟さん!」



門を出てすぐのところで姿を見つけ、その背中に呼びかける。

私の声が届いたのか、立ち止まった彼がゆっくりと後ろを振り返った。



「おー。出て来てよかったのかよ、あのふたり放置して」



いつもみたいにイタズラっぽく笑いながら、悠悟さんがそんなことを言う。

その言葉は無視し、私は急いた気持ちで悠悟さんを見上げた。



「あのっ悠悟さん、さっきのって……っ!」

「いやーもう、彼氏のフリとか面倒くさくなったからさ。手っ取り早く種明かしして、あんなおっかねぇとこさっさとお暇しようと思って」



首の後ろに手をやりながら、悠悟さんは悪びれる様子もなく答える。

……馬鹿。悠悟さんは、馬鹿だ。

私がそんなセリフを、鵜呑みにするとでも思っているのだろうか。

あなたは、そんな人じゃないって。1ミリも疑わずに断言できるくらい、もう私は、あなたの優しいところをたくさん見てきているのに。


伝えたいことはたくさんあるはずなのに、話すべき言葉がまとまらない。

もどかしくじっと悠悟さんを見上げていると、不意に彼が真顔になる。



「……えらかったじゃん。あのふたりにビビんないで、ちゃんと自分の気持ちを言葉にして伝えて」



一瞬、ためらいがちにさまよった右手。

その手がポンと、私の頭の上に置かれる。



「『悠悟さんのことがすきなの』って。あれ、アカデミー賞ものの迫真の演技だったな」



なんで、笑いながらそんなことを言うの。

きっと本当は、彼も気づいているはずなのに。



「違……あのとき言ったことは、嘘じゃな……っ」



頭上にあったはずの悠悟さんの右手が、まるで言葉を遮るように私の口を塞いだ。

目を見開く私に、彼は切なげな表情で小さく笑う。



「そんなのは、気のせいだ。ここ1ヶ月の間、恋人みたいに一緒に過ごしたから、おまえは勘違いしてるだけ」



口を塞がれたまま、ふるふると首を横に振った。

違う。勘違いなんかじゃない。

この気持ちは、間違いなく本物なのに。
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