イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「はい。お話ししたいことがあって」



ハッと、悠悟さんが鼻で笑う。



「俺はないんだけど」

「込み入った話なので、とりあえず場所を移動しましょう」

「は? ちょっ、」



あくまで拒絶しようとする反応は聞かなかったことにして、その腕を掴んだ。

体格差はあるけれど、周りの目を気にしてか悠悟さんも乱暴に振り払ったりはしない。それをいいことに、私は立ち上がらせた彼をぐいぐい引っ張って目的の場所へと強制的に連行する。

カフェを出て、フロントをスルーし、奥にあるエレベーターホールへ。

その時点で、悠悟さんは『まさか』といった表情をしていた。けれどがっちり右腕をホールドして、私は離さない。

上を向いた矢印のボタンを押すと、エレベーターはすぐに到着した。中に入り、手早く【閉】を押して、次に押すのは【4】のボタン。

エレベーターが上昇を始める。ちらりと隣の悠悟さんを確認してみると、階数表示を見上げてものすごくうんざりした顔をしていた。そのくちびるが「マジかよ……」とつぶやいている。

4階に到着した後は、悠悟さんを引きずったまま【418】と書かれたドアの前へ。

まったくのされるがまま、というわけではないにしろ、ここまで彼は大人しくついて来てくれた。そのことに、こっそり心の中で安堵する。

バッグからカードキーを取り出し、ドアに通す。

ロックが解除されたところで、部屋の中に悠悟さんの身体を押し込めた。私も素早く室内へと入って後ろ手にドアを閉める。



「……ここなら、ゆっくりお話しができますね」



逃げ道を塞ぐ目的で、ドアにもたれながら言った。

勢いで連れて来たはいいものの、悠悟さんと密室にふたりきりだ。ドキドキと心臓が早鐘を打っている。

彼はというと、私から数メートル離れた場所に立って片手で目もとを覆い、天を仰いでいた。
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