好きの海に溺れそう
海琉が作ったのは簡単な野菜スープとシーザーサラダ。



野菜スープにはトマトと人参、じゃがいもがごろっと大きく入ってる。


あとはうちにあった3枚切りの食パン。



チーズが乗ってこんがり焼かれてる。



香ばしい匂いがキッチンに立ちこめる。



「おいしそう…」

「てかこれ朝飯じゃね?」

「でもありがとう。食べるねー」



玖麗と悠麗は、ぶつぶつ言いながら美味しそうに食べ始めた。



あたしも急に食欲が湧き、悠麗のご飯に手を伸ばす。



悠麗に手をばしっと叩かれた。痛い…。



「いったいな…。手が赤くなっちゃったじゃん」

「俺の」



ちょっとくれたっていいじゃん。悠麗のバカ。



そのとき、お母さんが帰ってきた。



「ただいまあー。お父さんから手紙届いてるよー」



そう言ってお母さんは手にハガキを持って家の中に入ってきた。



あたし達の父親は、海外を飛び回ってるカメラマン。



今は確か、スペインかどっかのヨーロッパにいるらしい。



お父さんはあたしが小さいときからほとんど海外にいるけど、月イチで転勤先からハガキをよこしてくる。



「あとで見る」

「んー。あ! 悠麗いいもん食べてる~。ちょっとちょうだい」



お母さんはそう言って悠麗のお皿に手を伸ばした。



でもやっぱり悠麗にばしっと叩かれる。



「親子そろってなんなの!? なんで人のばっか狙うんだよ!」

「だっておいしそうなんだも~ん」

「自分たちで食ってきたんでしょ? 人のもんに手ぇ出すな」

「悠麗やーらし~。『人の(もん)に手ぇ出すな』って?」



お母さんとあたしの言葉に、「はぁぁ…」と深いため息をついた悠麗。



黙ってまた食べ始めた。
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