好きの海に溺れそう
~海琉~

観覧車を降りて花火のよく見えるところに言ったら、花火はもうほとんど終わってしまっていた。



最後の一番大きな花火を、手をつないで見てから、駅まで歩いた。



かなりの人が帰っていくので、心配になるのは電車の人ごみのこと…。



駅に着くと、やっぱりすごい人の数。



杏光と何気なく顔を見合わせた。



そこで、杏光の顔色が瞬間で変わる。



「げっ…」



えっ、なに…?



「海琉、先に謝るけど、今あんた恥ずかしいことになってる」

「え?」

「ほら…」



杏光が鏡を俺に手渡した。



言われるがまま、鏡を見てみる。



わっ…。



俺の上唇に、少しついてる杏光の口紅…。



近くで見ないとわからないほどだけど、これは恥ずかしい…。



杏光が思いっきり俺の口をごしごしする。



痛いって…。



「気合入れていつもより濃い色使ったからついちゃったんだね…」



杏光が苦笑してる。



恥ずかしいけどなんだか可愛くて、杏光の頭を少しなでた。



杏光が嬉しそうに俺を見る。



「今日はもうキスできないね…次からは色考えてから使います…」



「でも、俺的にはそんなことで杏光がしたいメイクが出来なくなるほうが悪いし嫌だな…」



素直にそう言ったら、杏光が俺をゆっくりと抱きしめた。



「ちょ、杏光、人前…」

「うるさい…」



もう~…。恥ずかしいのに…。



幸せと恥ずかしさが同居しながら、電車が来るまでしばらくそのままだった。



電車が来たので乗ると、やっぱりものすごい人の数。



人ごみに飲まれて、杏光がどんどん流されていってる…。



やばい…。



とっさに手をつかんで、ぐっと引いて握りしめた。
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