好きの海に溺れそう
そのまま手を引いて、杏光を隣に戻した。



杏光と目が合ったので、にっこりと笑った。



杏光の顔が、心なしかちょっと赤い。



杏光の手の熱が伝わってきた。



もしかして、ドキドキしてる…?



いつでも余裕な杏光がそんな雰囲気で、なんだかすごく嬉しくなってしまった。



可愛い…。



次の駅でだいぶ人が減って、1つだけ席が空いた。



杏光をそこに座らせる。



「たまにはかっこいいことするじゃん」

「たまにはって何、たまにはって」

「たまにはじゃん。いっつも何をするにもあたしからだし」

「さっき俺にちょっとときめいてたくせに…」



俺がそう言ったら、黙ってしまった。



口をとがらせて、軽く俺をにらむ。



そんな表情もかわいいって思うの、おかしいかな…。



「今日は…たくさんドキドキさせられました」



杏光のその直球の言葉に、俺の方が赤面…。



うう、結局いつも赤面するのは俺の方ばっかり…。



「こんなにドキドキして、早死するかも…」



は、話をそらそう…。



「よ、夜ご飯、食べてから帰らない?」

「じゃあ海琉んとこのカフェ行きたい!」

「それお客さんとして行くの若干恥ずかしいんだけど」

「あたしあそこのごはん好きなんだもん。行こうよ~…」



まあいっか。



杏光が行きたいところ、どこでも連れて行ってあげたい。



電車が最寄り駅に着いた。



大勢の人の中、杏光の手をまた離れないように引いて、電車を降りる。



その手がだんだん絡まって、俺たちは、しっかりと手をつないだ。



お店に着くと、ディナーの時



間が過ぎてるにも関わらず、たくさんのお客さん。



人気店なだけあります…。



「いらっしゃいませ…って、海琉くん!隣の方は、彼女さん?」

「はい…。すみません、混んでるときに…」

「いいよ!入って!」



明るく対応してくれたのは、バイトの女性の先輩だ。



「あんな綺麗な人と働いてるんだね」
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