・キミ以外欲しくない

「大抜擢だな。頑張れよ」

「はい?」


上司に呼ばれ、素っ頓狂な声で返事をした。
それもそのはずなのだ。
出社した途端、上司に名指しで指名された上に手招きされ。
デスク前に到着した私に、突然投げかけられた上司からの激励のお言葉だからだ。

四十代半ば、頭皮の薄くなった立派なオヤジ腹の上司は状況が飲み込めていない私を前に、何やらニコニコ満面の笑みを浮かべている。
そんな上司に、疑問を投げかけるのは当然だろう。


「あのぉ、私がなにか……?」

「忘れたのか? 建設予定のマンションの件、室内の間取りや設備関係諸々について社内から提案を出すよう上から指示があったことだよ」

「あぁ、はい。そういえば、ありましたね」


マンション建設の場合、通常なら専門チームを構成し該当メンバーが中心となり、計画が進んでいくのだが。

今回のマンションに限り、我が社では珍しく所属部門関係なしに社員全体から募った企画案だった。
それは、社長の思い付きから。などとも言われていたけれど。
いつもは誰かの補佐として働いていた私は「どうせ採用されるわけもないし」と気楽な気持ちで提案書作成し提出した。
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