・キミ以外欲しくない
現実的でない指摘を受けてしまったことも、納得できるものだったことを素直に話した。
こんな話をしてしまった私は、今回の企画には相当しくないと自ら白状しているようなもので。

黙って話に耳を傾けていた副社長は、話し終わるまで無言を貫いていたから。
きっと呆れられて「担当から外れろ」と言われてしまうだろうと覚悟する。


「……この後の予定は?」

「え?」


唐突な質問に、声が裏返ってしまった。
そんなことを気に留める様子もなく、副社長から再び確認される。


「帰るだけ? 誰かと会う約束などは? 例えば恋人とか」

「無いです! 恋人なんて居ません」


って。なにを力を込めて答えているんだ、私は。
恋人がいないことを主張してどうする!
二十九にもなって、恋もしていないと白状している様なものじゃないか。


「君は独り暮らしだと言ったな? 暫く家を留守にしても構わないか?」

「? はい。特に支障はありませんけど」

「よし、一緒に来い」

「へ? あのっ」


副社長は身の回りのものを手早く片し、部屋のドアを開けると待機していた秘書の浦部さんに「今日はあがる」と声をかけた。

浦部さんが、私にチラリと目を向け微笑んだので、つられるように微笑み会釈し、副社長の後を追い部屋を後にした。
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