・キミ以外欲しくない

私はいったい何処に連行されているのだろう。


副社長の私用車に乗せられ、助手席に座り窓越しに見える夜景を眺めながら。
同じことを繰り返し考えている。

運転手付きの車で送迎されているものとばかり思っていたけれど。
どうやら、うちの副社長は自分で運転するのが好きみたい。
慣れたハンドルさばきで、追い越し車線に出ては次々に前を走る車を抜かしているのだ。
けれど、荒い運転ではなく。むしろ乗り心地が最高にいい。


途中、我が家であるアパートに寄り、身の回りのものを持ってくるように命じられた。
数日分の着替えにコスメ、パジャマなど。

「留守にしても構わないか」と確認されたのだ、大体の見当はつく。
きっと、仕事が出来ない私を会社近くのホテルにでも監禁し、仕事漬けにするつもりなのだろう。
それくらいされても拒否なんて出来ない。
私の提案した事は夢物語に過ぎず、会社の利益など完全無視した企画なのだから。
せめて、会社に貢献できるように工事などが延滞する事無く、手配を済ませ使用する備品等を揃えること位しか出来ないし。


ポプラ並木が続く道を抜け、高級ホテルが立ち並ぶ景色にかわる。
副社長の運転する車は、そんな高層マンションのひとつへ吸い寄せられるように、地下駐車場へと入って行った。
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