・キミ以外欲しくない
不安になりかけた時「そうだよ」と声が聞こえた。
ホッとしながらも、部屋に居る事を不思議に思い、起き上がろうとした私に近づいてきた副社長が言った。

「まだ明かりが点いていたけど、覗くと寝ていたから。灯りを消しに入っただけだ、起きなくていい」


頭を撫でられ優しく囁かれた声に安心し、瞼を閉じる。
同時に、柔らかくて温かいものが唇に触れた気がした。


これは夢だよね?

突然の事に抵抗する気にならないのは、やはり夢の中だから?
それとも、私が望んでいる願望だから?

重ねられているのはポテッとした、あの唇?
だとしたら、なんて柔らかくて感触がいいのだろう。
もっと触れていたい……。


気が遠くなるように、私は夢の中へと落ちていった。


朝日が差し込み、眠い瞼を擦りながら起き上がる。
昨夜、微かに触れた唇の感触を思い出すように口元に指先を当てた。

やはり夢だったのだろうか。
あれが現実ならば、こんなにぐっすりと眠りについてしまった自分を叱りたい。

寝癖が付いたまま、部屋のドアを開けると。
リビングには既に身支度を済ませた副社長が、ソファに座り新聞を読んでいた。


「おはよう、ございます」

「起きたか。早く着替えろよ」


変わらない態度である副社長の様子から推測するに、やはり夢だったのだと確信し。
慌てて支度を始めた。
< 42 / 61 >

この作品をシェア

pagetop