飛蝗者
正大に父のことを話さなかったように、私は父に正大のことを話していなかった。

これに関しては必要性云々の問題でなく、私は父と話すようなことがなかった。
もう何年も口をきいていなかった。

上京後も母とは電話でのやり取りがあるものの、受話器の向こうに父を感じたことは1度としてなかった。
電話を切るとき、母は決まって「ごめんね」と言った。
何に対しての謝罪なのか、心当たりが多くて分からなかったけれど、そのすべてに対してなのだろう。
娘に負い目を感じなくてはならない。そんな男を愛してしまってごめんね、と。
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