最後の恋 【番外編: 礼央目線】
彼女が、今まで俺の前では一言も出すことのなかった紫乃の名前をほろ酔いになっていたせいかポロリと零した。


彼女は、しまったと思ったのだろう、その後の言葉が続かず不自然に途切れた。


だけど俺にとっては紫乃の名前が出た今がチャンスだと思った。


しまった!という表情の彼女に何も気にしてない素振りで続きを促す。


「皆が、何?」


彼女が俺を見た。


その目が、今まで暗黙の了解の様にお互いが一度も触れなかった紫乃の存在に未だに苦しんでいる様に見えた。


彼女はまだその先を言葉にすることを迷っているのかグラスを手に取り、中身を一気に飲むと少し離れたところにいたマスターに同じお酒を頼んだ。


「…皆…


不意に彼女が話し始めた。


「…一ノ瀬君には綺麗な彼女がいたから言えなかっただけだよ。2人がお似合いすぎて、誰も割り込むことなんて不可能だったから…。」


言い終わった彼女の前にタイミングよく新しいグラスが置かれ、マスターがまた離れていく。
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