愛されたいのはお互い様で…。
…伊住さん。
「…何だか、話したい事が出来ました」
「駄目ですよ。まず紫さんを頂いてからで無いと。何を話されるか、まだ恐いですからね」
「では寝物語で…」
「ここでもいいのですが、…急いては事を仕損じると、紫さんに言われてますからね。何事も諸々…仕損じないように。ソファーでは止めておきます。運びますよ?」
「…あ、はい…ぁ」
抱き上げられて透かさずおでこに唇が触れた。こうして…少しずつ言葉でも態度でも甘くさせる。
…あ、これ。
「どうですか?少しは心に響いてくれるモノありますか?」
「こんな…行った事は無いですし、された事も無いですけど…ホテルのサービスみたいですね」
伊住さんの大きなベッドには薔薇の花びらが散りばめられていた。色気のある…やはり大人の色だ。
「私にしたら、大冒険ですよ?今夜、紫さんがこういう状態で居てくれるかは解りませんでしたから。…勿論、ただ寝るだけになってもいいと思ってましたよ…そうなっていたら…。負け惜しみですけどね」
「ワインレッドの花びら…白いシーツに映えて綺麗ですね」
「下ろしますよ?」
「…はい。あ…何だか高貴な人になった気分です。贅沢ですね。…スーッ、はぁぁ…少し、やはり香りますね。シーツに赤い染みとか付かないですか?…、大丈夫でしょうか」
「あ、…フ。貴女という人は…今日は誕生日ですから、気にしなくていいんですよ、そんな事は」
「さっきもですが、どうして誕生日…」
「知ってるかって?」
「はい」
「紫さんはきちんとした人ですから。顧客カードの記入欄、全て埋めてくれてました」
「…あ、だから」
「はい。そんな事が無いと、私は知り得ませんでしたよ?」
でも、覚えてくれていたんだ。
「覚えてますよ?紫さんの事で知り得た事は忘れるはずないじゃないですか」
「あ」
「そのくらいの心の動き…、今、紫さんが思ったくらいの事は解ります」
「伊住さん…」
「好きな人の事は私だけが知っていたいと言いました。流石に誕生日は私だけが知っているというのは無理ですけどね。お友達とか、知ってる人は居るでしょうから。誕生日は、お祝いをさせて貰えるなら、それだけでいい…」