愛されたいのはお互い様で…。
正統派で行くなら……、決めたんだ、部屋を訪ねる事もしてはいけない。でも、それでは話が出来ない。
会社帰りを待ち伏せるか。それは俺の方が遅いから無理か。
…普通に会社を訪ねて見るか。それも営業同士って訳じゃないからな。面会希望しても、そんな人は知らないと言われるかも知れない。
電話もメールも、…しようと思ったら出来る。俺は削除していない。履歴だって残してある。
はぁ、意気込んで見たものの、決めた事を破らない限り出来ない事ばかりだ。
伊住銀士榔と言った、靴屋の男。
何だあれは…。吸い込まれそうな目をしていた。目の奥がどこまでも深いような。妙に引き込まれて目を逸らせなかった。
威圧感は無いのに。いや、むしろ、物腰が柔らかいとでもいうのか。包み込むような大きさ…。
俺に対してだって対処はきちんとしていた。必要最小限の会話だけだったが人当たりのいい感じだった。
それなのに鋭い刃のようなぞくっとさせるモノがある。易々と人には見せない部分といったところか…。
ずるいだろ…あんなのは。男として最強だ。時代が時代なら、侍のような風格のある人物だった。
俺が女なら、身も心も、全てを預けたくなる。安心感のある人物だ。んー…。不安でいたという要素を抜きにしても紫が惹かれるのも当たり前か…。
俺の言葉にも全く動じなかった。
…はぁ、…ん゙ー。…いい男だ。悔しいけど、確かに不安がないよな…。