愛されたいのはお互い様で…。

「ご飯は?もう済みましたか?」

「ああ、大丈夫だ」

「では、私は…アイスコーヒーを…」

「二つお願いします」

…。

ご飯時は過ぎていたから、お客さんも疎らだった。

「…先にこれを…お返ししておきます。処分していなかったので」

慌ててバッグに入れて持ち出した、未開封のままの箱を出した。席について直ぐこんな事…でも話によってはタイミングを失うかもしれないから。折角…務が誕生日にと買ってくれた物なのに…。

「開けない方がいいと思って開けませんでした。…本当は、あの時、受け取ってはいけなかったんです。今日までしまったままでした」

スーッとテーブルを滑らせて、座っている務の前で止めた。
リボンも掛かったままだ。

あっ…。一瞬の事だった。手に取ると、務は足元にあったごみ箱に落とした。返されたモノは要らないという事だ。
こんな物、持って来て返したから…早速空気を悪くしてしまった…。

「お待たせ致しました」

沈黙の中、カランカランとアイスコーヒーのグラスが運ばれてきた。
それぞれ丁寧に置いて、伝票を置き頭を下げて下がって行った。

「話というのは、自分の言った事は棚に上げておいても、どうしても言いたい事なんだ」

…。

「あんな、カッとなった状態で、さようならと言われた事を受け入れる事は出来ない。これは直ぐ否定しておくべきだったんだ。
それに、嫌いで終わりにする訳じゃないと言った。それはそういう事だろ?だったら終わらせる意味が解らない。俺達は好き合ってるだろ?…どう思ってる?」

…。

「…もう、…どんどん遅い話…。何故、今?…。今になってそんな事を言うくらいなら…、何故あの時に直ぐ言ってくれなかったのですか?
さよならって、苛立った感情に対する、ただの買い言葉だろって。何故直ぐ言ってくれなかったの?………どうして、今…また」

蒸し返すような事…。
そんな事は今だからって事じゃない。務はずっと好きだって言ってる…。解ってる。

「紫…。もう、名前で読んで話してもいいよな?変に丁寧な口調もしないでくれ」

「私達は…、もう知らない人になった。だから…、こうしようって事だったでしょ?」

「解ってる、そうだけど。…話はまた繰り返しになるけど、…。傷つけたから言えなかったんだ。それを無しにして、好きだから終わりになんてしないって、…むしのいい事は言えないと思ったんだ。だから好きでもどうしても決定的な事が言えなかった。
勿論傷つけた事を無しには出来ない。だけど、紫を信じてない訳じゃなかった。夏希が部屋に居る…そんな事、ある訳ない、って思った話だったからだ」

そのままをその通りに言っただけの事…居なかったってさって感じのね。それはもう解ってる。

「もういいの…。その言った時の状況も、…嘘も、解った事で、…何もかも…もう済んだ事。だからもういいの」

そんな昔の話じゃない…。これは最近の話。だけど、随分昔の出来事みたいに感じてしまうのは何故だろう。
そして、目の前に居るこの人の言葉が、全然響いて来ない…。それは何故?…。今更…だから?
要は、好きだからやり直そうという話だ。…違う。改めて始めようって話だ。
今更だからだろうか。務の事は好きだったはずなのに…。私は冷めてしまっている?…。やっぱりタイミングなのだろうか。
多分、今、こうして話す事が…何度も何度も疑って揺れていた頃の思いを思い起こさせてしまっているからだろう。素直にはなりたくないって思ってしまうんだ。頑固者で融通が利かない。
誤解は早く解いておけば良かった。好きなら好きとお互いを確認するように改めて直ぐ告げていれば、こんな事にはなっていなかった。何もかももう遅いって。
何故だかどうしてもそう思ってしまうからだ。
< 134 / 151 >

この作品をシェア

pagetop