愛されたいのはお互い様で…。
「思いの丈をぶつけたくてもぶつけられない…」
…。
支払いを済ませ、店を出た。
公園まではまた何も話さない。手が触れそうで触れない距離なのに、触れさせる事はない。どっちからだって強引に掴んで引き寄せたりもしない…きっと、務、何だか解らないもどかしさに包まれている…。
夜の公園は二人だから居られる。ベンチがあったから腰掛ける事にした。
いきなり座ろうとした私は務に止められた。
昼間の子供達の形跡だろう。少しあった乾いた泥を務が掃った。
こっちに座れ、って、汚れてない方に座らされた。いつも自分でもっと確認しないと…、おっちょこちょいだからな、と言われた。
そう言えば、ご飯を食べている時だって、遠いお皿に箸を伸ばして、手前の物で袖を汚しそうになったり、グラスに手を当てて倒しそうになったり…いつもすんでのところで務の手が助けてくれてたんだ…。
「ん?どうかしたか?」
急に思い出して、しんみりして涙が零れそうになった…これは、…いけない。二人で居るから思い出す。終わりだと思うから記憶を辿ってしまう。あった事を思い出してはいけない。…務の気遣いとか、思い返せば沢山あり過ぎる。
こんな時、女の涙は厄介にさせるんだから…。
堪えるのは強がりからだ。
「…うん?…うん、…何だかね…昼間は賑やかなんだろうけど…、今は…暗い隅の方は怖いかなぁって…ね?」
話は過ぎった事と全く違うモノにした。しかも務の苦手なモノ。
「またそんな事を言う…怖いだろうが…そんな事、考えてたのか?」
「…うん。…務はずっと怖がりよね」
唯一の弱みかな…。そんな人には全然見えないのに。
本当に考えていた事は、今はもう…言ってはいけない。
「…はぁ、ああ、誰も知らない。紫だけが知ってる事だ」
…そうなんだ。…弱いところは迂闊に人には見せられないもんね。
「仕事帰り、特にこだわらないで、こんな風にふらっと来ても良かったかもね。会うって、ご飯でもしなきゃって思っちゃうよね。だから無理になってたんだ。ただ一緒に帰って来て…。手を繋いで。それで良かったのに…。
……あ、無理だったのよね、務は私の事、内緒にしてたから」
それに、今更の話…。
「…いや」
「え?」
「それはもう…昔の話になったけど。…そろそろ身を固めるかもって、一番仲が良くて、一番のライバルの奴にだけは言ってたんだ」
「ぁ…務、…」
…。
「これも、今になっての話になるな。……ずっと、この先ずっと一緒に居たいと思った…。だから紫にどう思っているか聞いた。紫は一緒に居たいと言ってくれたから…」
あぁ……。あの質問。
務は…身を固めようとしていたんだ…。