愛されたいのはお互い様で…。

そこに誰も絡んでなかったら大丈夫だったのよ。何を内緒に進めていても。
私が夏希さんの存在を感じて…疑ったから…。

「…紫、諦めの悪い男だと思って、…呆れてもいい、聞いて欲しい」

「…はい」

「人は言うよな…。前の恋を忘れるには新しい恋を始めたらいいって。俺にはそれは当て嵌まらない。前の恋も新しい恋も無い。全てが紫なんだ」

…務。

「出会って、もう何年も経ってる…。今だけの話じゃない…。この先、違う人となんて無い。…言い方を変えたって同じだ。
前の恋も紫。新しい恋だって紫だ…俺は…」

「務…」

「これを、さようならと言われたその時にちゃんと言うべきだったよ」

「……う、ん」

「はぁ、…そこは、務!って言って、…飛び込んでは…来ないよな…」

「…うん」

…もう…飛び込んではいけない…。行ってはいけない。…ごめんなさい。

「あ、ごめんて言うなよ。言っただろ?諦めの悪い奴だって。ずっと未練たらたらなんだからな」

「…うん」

「…今は、紫の心に伊住さんがもう居る。それはどうしようもないんだ。…自然に惹かれてしまったんだから。
じわじわと囚われた心は、中々簡単に離れる事はない。…離れてもいけない…。
だから、俺も見習う」

「え?」

「俺もじわじわと紫にまた入り込む。攻める自信は出来た。もう知らない人の振りをする事は無くなった。終わった者同士になったんだからな。そこは、それでいいよな?理屈は合ってる」

「う、ん」

「あの人は紫にこんな事をしていた…」

…え?務…?……あ。

「俺とつき合っている紫なのに…。紫を、こんな風に抱きしめていただろ?…」

務に抱きしめられていた。

「…それに、キスだってされたって、紫は言ってた…」

「それはそうだったけど…駄目よ?」

「解ってる。…まだそれは早い。今はキスはしないから大丈夫だ。確認しただけだ。隙はあるって事だよ、俺は紫の事なら知ってる。俺の紫だったから。あ、物みたいに言ってるんじゃないぞ。好き合っていたって意味だ」

…務。


「……帰ろうか、送るから」

「…うん」


「手は…繋げないか…」

「うん、繋がない」

「…くっそ〜」

「フフ。…務、…あまり、揺らさないでね…」

「そんな事、はいって言えるか…」

「…うん」

何だか同士みたいになっちゃった。まだ好きなのに…。
< 139 / 151 >

この作品をシェア

pagetop