愛されたいのはお互い様で…。
「…はい、出来ましたよ」
髪をアップにする事から浴衣の着付けまで、全部伊住さんがしてくれた。
私は成すがまま。座っているだけ、立っているだけだった。
「いいですね、やはり出掛けなくて正解です。こんな紫さんを外には出せません」
…もう。言い過ぎ…。
「上がりましょう。ご飯を食べましょう」
「はい」
屋上へは外階段もある。今は中から上がっている。
「はい、手を貸してください。足が上手く捌けないと躓いてしまいますから」
「はい」
ゆっくり手を引かれ階段を上がった。洋服で上がったり下りたりするのとはやはり勝手が違った。
オードブル形式に盛りつけた料理は先に運んでおいた。
「程よく風も吹いています。上空も、風で煙も流れるでしょうから、色の塊くらいには見えると思いますよ」
「はい」
こうして居る事がいいのだ。花火はきっと二の次、三の次の事だ。
伊住さんは浴衣もよく似合う。この姿の方が余計、色気がだだ漏れだ。私の浴衣姿の事をどうこう言うより、伊住さんの方がずっと艶っぽくて、色香に当たりそうだ。
「紫さん?ここに、…一緒に座りましょう」
「え?」
そこは、…伊住さんの膝の上じゃないですか。
椅子も用意しているが、厚みのあるシートも敷いてある。
そこに胡座を組んで座った伊住さんは、ぽんぽんと膝を叩いていた。
「さあ、どうぞ。私の今日まで待った楽しみを台なしにしないでくださいね」
「でも…」
「何を恥ずかしがる事がありますか。一年に一度しかないのですよ?」
いや、それは花火の事で、伊住さんの胡座は一年に一度では無いでしょ?
「あぁ、もう…じれったいですね」
腕を引かれた。…あ。
「はい、定位置。ここは紫さんしか駄目なんです。素直に自分から座ってくれたらいいのですよ」
「重くて、足、直ぐ痛くなりませんか?」
「なりますよ、直ぐ」
「え?だったら…」